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連 載

生涯と業績

本シリーズでは廣池千九郎の生涯と業績を、エピソードを交えながら詳しく紹介します(月毎に更新)。

NO.87 『斯道』への寄稿  大正6年(1917)【51歳】

廣池の斯道会(NO.82)を通じての活動は、講演の他、機関紙『斯道』への寄稿が挙げられる。全100号に及ぶ本誌のうち、廣池の論説・談話は56本掲載された。内容は、奉仕の精神や親孝行などの道徳、自分が苦労して成功した体験、理想の宗教像、政治問題や労働問題の解決法などである。

 大正6年発行の第38号と39号には、「私が苦学の経路」という文章が2回に分けて連載された。本文では、志を立て郷里中津を出たこと、京都における生活、早稲田大学の講師就任などの略歴とともに、その間における自身の孝行について語られている。決して裕福とは言えない生活の中でも工面して親に尽くしたのは、少年時代に母親から受けた孝行の教えがあったからだと述べている。

 廣池は孝行を自ら実践するだけでなく、門人の指導でも講演でも、その大切さを説き、実行を促した。昭和4年には『孝道の科学的研究』を著し、より質の高い孝行の推奨に努めている。母の孝行の教訓は、廣池にとって終生のテーマであった。

NO.86 要人への働きかけ  大正6~11年

廣池は最高道徳の必要性を、講演活動だけでなく、直接的に政界官界の要人へ働きかけていた。例えば、山県有朋(大正6年、9年)や松方正義(大正11年)を訪問し、モラル・サイエンス研究について説いている。2人は廣池の研究に多大の賛意を表明していた。特に松方は廣池の話を聞いて「あなたの最高道徳に関する説にはいちいち感じ入りました。明治天皇は私に対して、たびたび誠でなければいかん、誠であるならば必ず成功すると仰せられましたが、陛下ご一代の御事業はまったく祖宗(編集者注:歴代の天皇)のご意思に従われ、その至誠天地に感通するお心・行いの結果であると存じます」と語ったという。

 以上の2人のほか、廣池は大隈重信や枢密顧問官佐々木高行侯爵も訪問し、最高道徳の話をしている。

 このように廣池は道徳に関する研究の成果を国家の指導者層から国民一般へと普及し、その実行を促そうとした。

NO.85 大木遠吉主催の講演会 大正8年(1919) 【53歳】

廣池は斯道会の活動を通じて大木遠吉伯爵と出会った。大木は道徳に高い関心をもつ貴族院議員※で、早くから廣池のモラル・サイエンス研究に注目していた。大正8年5月、廣池は大木に最高道徳について話をしている。大木は“日本の道徳の核心は慈悲寛大自己反省の精神にある”という廣池の見解におおいに感銘を受けた。数回話を聞いたあと、大木は“最高道徳を求める者を日本の政治家、実業家に2、30人はつくりたい。そうすれば政治も産業、ひいては教育も改善できるであろう。よって華族会館で最高道徳の講演会を開きたい。一つ骨を折ってくれないか”(意訳)と、廣池に講演を依頼した。こうして開かれた講演会には憂国の政治家、海軍・陸軍の将校、実業家、華族などが出席した。大木は多忙なスケジュールを割いて、計5回の講演会(連名のものを含む)を主催している。大正時代に廣池の研究が国家の要人へと浸透した背景には大木の尽力があった。

※大正9年 原敬内閣で司法大臣に就任、のちに鉄道大臣を務めた。仁義に厚い性格であったという。

NO.84 モラル・サイエンス研究からモラロジーへ 大正年間

廣池は青年時代から道徳について深い関心を持ち、着実に研究を進めてきた。明治時代は、世界的に経済学、社会学、心理学など多くの学問が科学として研究され始めた時代であった。そのような状況において、廣池は、道徳に関する科学を樹立することが必要であり、また可能であることを自覚し、それをみずからの課題とした。欧米では、道徳科学(モラル・サイエンス)を意図した学者は少なくない。

 その後、廣池は自身の研究成果とその理論に基づく道徳の実践を通して、質の高い道徳(最高道徳)を発見し、ますます道徳科学樹立の必要性を痛感した。従来のモラル・サイエンスでは道徳概念が狭いこと、精神作用の研究が欠けていること、最高道徳の研究がまったく存在していないことなどの理由から、新しい学問領域を構築しようとした。つまり、廣池は単に道徳だけでなく、最高道徳をも対象として研究に取り組んだ。この独自の研究成果を従来のモラル・サイエンスと混同されないように、廣池はモラロジーという学術語をつくったのである。

NO.83 モラル・サイエンス 大正7年 【52歳】

 大正7、8年頃から廣池は「モラル・サイエンス」をテーマにした講演を多く行った。記録に残っている中で、その初出は大正7年6月28日東京高等師範学校で行われた講演であった。演題は「モラル・サイエンスと国民道徳」。

講話のメモからは、道徳実行の効果を進化論や遺伝学などの最新の科学によって説明しようとしたこと、そのためにモラル・サイエンスの研究が必要であると主張したことが読み取れる。またメモに見られる「徳と力の比較」「老人尊重の合理的理由」「現代思想の誤謬」という項目は、後の著作でも展開される論点である。

講演会では、嘉納治五郎校長をはじめとした聴講者が盛んに質疑を行ったという。


 

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生涯と実績NO.1-82
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